野球は「変化するスポーツ」なのかもしれない。前号で、監督、コーチが現代っ子たちに「指導内容のニュアンス」が巧く伝えられないという話をした。ひと昔前、当たり前のように使われていた「雑巾を絞るように」なる“打撃指導のセリフ”が、現代っ子にはチンプンカンプンなのだ。そう、雑巾を絞ったことのない子も増えたからである。野球に関するゼネレーション・ギャップはそれだけではない。
『逆シングル』と『片手捕り』である。『片手捕り』に関する解釈は一変したと言っていい。ひと昔前は、「両手でしっかり捕れ!」と教えていた。しかし、今夏の甲子園大会を見れば分かる通り、『片手捕り』が目立つ。両手で飛球を捕りにいく外野手なんか1人もいなかった。内野手にしても、失速するゴロを前進しながら片手で掬い上げ、一塁にランニングスローをしていた。『逆シングル・キャッチ』にしてもそうだ。筆者は40代だが、『逆シングル・キャッチ』をやって、「身体の正面で捕れ!」と一喝されたものである。
「シングル・キャッチの方が次プレーに素早く移行できるから」
「シングル・キャッチの方が落球しない」
高校球界の指導者たちはそんなふうに説明してくれたが、旧タイプの両手捕りが「間違っていた」とは言っていない。旧タイプのプレーが基本だとすれば、基本形を修得した上での応用がシングル・キャッチということになる。しかし、少年野球の世界には片手捕りを完全否定する指導者もいないわけではない。どちらが正しいかではない。「あれのプレーは間違っている。両手で…」と言ったところで、高校野球やプロ野球中継でシングル・キャッチを見せられれば、子供たちは混乱するだけだ。
高校、大学球界ではプロ野球経験者を指導者として迎え入れ、レベル向上にも繋がった。
少年野球の世界にも、大学、社会人などを経験した優秀な指導者も多い。だが、少年野球の監督たちは、中学、高校など「上のレベル」の指導者と情報交換する機会がほとんどない。少年野球の監督の大多数は、筆者と同じようにシングル・キャッチを否定された世代である。プロ野球界も野球人口の底辺拡大に心を砕いている。学生野球憲章の一部が改定され、今年から大学単独チームとの交流戦も可能となった。こうしたドラフト対象年代との試合も結構だが、小・中・高校の指導者が情報交換できるよう、一肌脱いでもらえないだろうか。
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- vol.4 「中学部活動とクラブチーム(2)」 (2011/3/3)
- vol.5 「球春再スタート」 (2011/4/5)
- vol.6 「「野球用語」が通じない」 (2011/6/20)
大学在学中からプロ野球、五輪スポーツの取材・執筆活動に入る。週刊大衆、週刊女性を経てフリーに。専属記者時代は二子山部屋を担当した。
近著は『マツイの育て方』(バジリコ出版)、『戦力外通告』、『同 諦めない男編』(角川ザテレビジョン/共著)、『プロ野球 最後の真実』(桃園書房)、『プロ野球 戦力外通告』(洋泉社新書/共著)、『猛虎遺伝子』(双葉社/共著)など。