「中学は部活動とクラブチーム、一体、どっちがいいの!?」――。
ご子息が野球をしているという友人、知人から、そんな質問を受けることも少なくありません。部活動、クラブチーム双方とも『長所』と『短所』があり、「子供にとって、どちらが合っているのか」を考えるべきなのですが、それを判断すべき情報もなかなか集まらないと聞いています。そこで、今回は『中学・野球部』と『クラブチーム』の特徴について、整理してみたいと思います。
当たり前の話ですが、中学・野球部とクラブチームの根本的な違いは、『軟球』と『硬球』です。
高校進学後も野球を続けるつもりならば、クラブチームに入って、早くから硬球に慣れた方が得策かもしれません。しかし、何人かの高校野球の指導者に確認してみましたが、それは否定していました。「多少の出遅れがあったとしても、一時的なこと」とのことでした。
ただ、筆者が取材した限りですが、投手は早い時期に硬球を握った方が良いのではないでしょうか。クラブチーム出身の投手は、『ボールの縫い目』の使い方が上手です。硬球ボールの『縫い目』は一定方向に向かっており、たとえばカーブを投げる場合、縫い目の方向に従ってボールに滑らせれば、その曲がり具合は大きくなり、逆らって投げれば、自ずと軌道は小さくなります。同じ球種でも、2種類の軌道を使い分けていました。
こうした細かい技術指導は、クラブチームの利点でもあります。
クラブチームには、大学、社会人など高いレベルで野球を経験した『指導者』がたくさんいます。一方、野球部の監督(顧問)は、基本的に『学校の先生』です。野球だけではありませんが、学校部活動の顧問は、必ずしもその競技経験者とは限りません。たとえ競技経験があったとしても、強豪高校や有名監督の下で「本格的な野球を学んだ」という先生はほとんどいません。また、指導熱心で経験豊富な先生に巡り逢えたとしても、公立校には転勤があります。
しかし、技術指導力だけで選択するのは間違いです。
部活動は『学校教育の一環』でもある以上、顧問の先生は「巧い、ヘタ」に関係なく、所属部員全員を平等に試合に出そうと努めます。クラブチームの監督も「チャンスは平等」とは言うものの、出場機会における差別化は覚悟しなければなりません。技術的に優れている子はもちろんですが、「成長の早い子はトクをしている」と言わざるを得ません。中学生は身体の成長過程のまだ途中にあり、体格差がそのまま「力の差」となっているように映りました。遠投力、ボールのスピード、打撃の飛距離などがそうでした。中学期に正しい野球技術を習得することも大切ではありますが、試合に出なければ学べないものもたくさんあるわけです。
『練習施設』(環境)についても考えてみたいと思います。
硬式ボールが使用できる公共施設(グラウンド)は、決して多くありません。専用グラウンドを確保しているクラブチームも「少ない」と言わざるを得ません。従って、クラブチームの練習や対外試合は土、日曜日や祝日に制限され、ウィーグデーは「練習ナシ」というところもあれば、「週1、2回のペースでナイター練習」が行われる程度でした。クラブチームの指導者は素振りやランニングなど、1人でもこなせるメニューを与えていますが、中学生が自らにノルマを課し、強い意志を持って「自主トレ」を続けていけるのかどうか、疑問です。
その点、野球部は放課後のグラウンドで毎日のように練習が行われています。施設問題、練習量では部活動の「優れている」と言っていいでしょう。
もう1つ検討してもらいたいのは、『練習の雰囲気』です。
これは、部活動、クラブチーム双方に言えることですが、熱心な指導者は、5分と同じ場所にいません。たとえば、学童のちょっとした動作の異変を見ただけでも、「オマエ、怪我をしてるんじゃないか?」と駆け寄っていきます。1日、最低1回は子供と話をしようとするので、ノックの順番を待つ輪にも近寄って行きます。グラウンド外でも、スポーツ科学や食生活の本を読み、ミーティングの参考にもしていました。スポーツ医学の講習会にも参加しているそうです。従って、熱心な指導者はミーティングでの話も豊富で、練習メニューもマンネリ化させません。マンネリ化させないから、グラウンドは常に活気が溢れています。こうした練習の雰囲気も、選択の判断材料になるのではないでしょうか。
部活動とクラブチームの特徴については、また機会を改めてご紹介できればと思っております。
■バックナンバー
- vol.1 「ドラフト会議」 (2010/11/11)
- vol.2 「渡辺俊介」 (2010/11/22)
大学在学中からプロ野球、五輪スポーツの取材・執筆活動に入る。週刊大衆、週刊女性を経てフリーに。専属記者時代は二子山部屋を担当した。
近著は『マツイの育て方』(バジリコ出版)、『戦力外通告』、『同 諦めない男編』(角川ザテレビジョン/共著)、『プロ野球 最後の真実』(桃園書房)、『プロ野球 戦力外通告』(洋泉社新書/共著)、『猛虎遺伝子』(双葉社/共著)など。