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FBA baseball column
vol.3 < > vol.5 vol.4 「中学部活動とクラブチーム(2)」
2011/3/3 美山和也

中学の部活動とクラブチームとでは、どちらが自分の子供に合っているのか――。
今回は『部活動』で成功した元プロ野球選手の話をしたいと思います。元東京ヤクルトスワローズの土橋勝征氏(現・二軍守備走塁コーチ)は地元のリトルリーグ(小学生)で活躍し、いったんはその系列のリトルシニア・チーム(中学生対象)に進みましたが、すぐに自身の通う中学校の野球部に転じました。当時、その野球部の顧問をされた先生によれば、「リトルシニアが合わなかった」と話していました。

猛練習に耐えられなかった? 指導者が鬼軍曹みたいだった? それともチームの和を乱す同僚がいたのか? 全て違います。『打撃フォームの改造』が原因でした。土橋・元選手といえば、打席でバットを構えた際、グリップエンドを高く構える独特の打撃スタイルでも人気を博しました。その打撃フォームは当時からで、リトルシニアの指導者はスタンダードな打ち方に修正しようとしたそうです。しかし、スタンダードな構えを習得するにつれ、彼本来の打撃力は失われ、成績不振に陥ってしまいました。対外試合でもベンチスタートとなる日が増え、打撃フォームを元のスタイルに戻そうともしましたが、指導者は認めてくれませんでした。

土橋・元選手の素質はリトルシニアも認めており、将来のために「おかしなクセは直しておいた方がいい」と思ったからでした。土橋・元選手は悩んだそうです。

自分の思うようにやりたい……。

悩んだ末、『軟球』の部活動に転向しました。

部活動を任されていた前出の先生も、初めて土橋・元選手の打撃フォームを見たときは「おかしな構え方をする子だな」と思ったそうです。しかし、ノビノビとやらせてやろうと考え、打撃フォームに関する指導は一切しなかったそうです。後年、千葉県の古豪・印旛高校に進み、ヤクルトスワローズにドラフト2位指名されたわけですが、土橋・元選手があの独特の打撃フォームを続けられなかったら、どうなっていたか……。

ヤクルトが優勝、日本一に輝いた1995年、土橋・元選手が早出特打ちに励む姿は、筆者も目撃しております。

「有名、無名を問わず、クラブチームに入ったからと言って、野球が巧くなることはない。1人になったときに努力できる選手にならなければ」

中学・クラブチームの日本一を決める大会『ジャイアンツカップ』にも出場したリトルシニア・チームの監督の言葉です。

土橋少年は中学校の野球部でも日々、素振りを続けていたのでしょう。

一般論として、中学の部活動は「巧い選手」と「ヘタな選手」の差が大きく、競技経験を持つ先生が顧問になったとしても、「巧い選手」に付きっ切りになることはできません。クラブチームでの野球を希望する中学生の大多数は「甲子園に出場したい、将来は野球で」と明確な目標を持っています。クラブチームがより高度な技術指導を行うのは「明確な目標を持った子供たち」のためであって、中学野球部は人間形成に重点を置いています。

自分の子供は「自由な環境の方が合っている」と思うのなら、部活動の方が充実した3年間を送れるはずです。

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美山和也  1967年千葉県出身。
大学在学中からプロ野球、五輪スポーツの取材・執筆活動に入る。週刊大衆、週刊女性を経てフリーに。専属記者時代は二子山部屋を担当した。
近著は『マツイの育て方』(バジリコ出版)、『戦力外通告』、『同 諦めない男編』(角川ザテレビジョン/共著)、『プロ野球 最後の真実』(桃園書房)、『プロ野球 戦力外通告』(洋泉社新書/共著)、『猛虎遺伝子』(双葉社/共著)など。

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