⒑28、プロ野球・ドラフト会議が開催された。今さらではあるが、今年は社会人・大学生投手の『当たり年』とも称され、とくに、斎藤佑樹(早大)、大石達也(同)、沢村拓一(中央大)の3人がどの球団に指名されるのか、注目が集まった。彼らが前評判通りの活躍を見せてくれるかどうか…。ちょっと大袈裟な言い方になるが、彼らの活躍は、日本プロ野球界の近未来像にも影響してくるのではないだろうか。
今ドラフトで『即戦力』と称された投手には、1つの共通点があった。ストレートの威力である。沢村は日本アマチュア最速の157キロ、大石の手元で伸び上がる直球には定評があり、技巧派投球の斎藤も今年の秋季リーグ戦で(9月11日/対法政大)、150キロ越えに成功している。2013年に行われる第3回WBCで、斎藤たちが日本代表チームの中核を担ってもらわなければ困る。しかし、彼らがもたらす影響力はそれだけではない。実は前回大会で、日本は連覇こそ成功したが、打撃陣は外国人投手のストレートに力負けしてしまった。ホームベース手元で微妙な揺れをきたすムービングボールに苦戦させられたバッターもいた。
日本のプロ野球界にも、ストレートに定評のある投手はいるが、ウィニング・ショットにストレートを使い、打者との力勝負に出ても負けない投手は、ダルビッシュ有、田中将大、涌井秀章、前田健太、(佐藤)由規、藤川球児といったクラスだけである。
技巧派の斎藤もストレートに対するこだわりは強い。彼は大学3年生時、投球フォームを崩して不振に陥った。高校時代に「キレイ過ぎる」とも称された投球フォームをいじったのは、自らが課した「150キロ」に挑戦するためだった。斎藤は夏の甲子園大会で自己最速149キロをマークしている。全国制覇を果たした栄光は輝かしい。しかし、その栄光が眩しければ眩しいほど、早稲田大学進学後の影は色濃くなった。自らを越え、過去の栄光を払拭する…。それが、150キロ越えという目標になった。
また、プロ野球各球団が上位指名した社会人・大学生投手は国際試合の経験も豊富である。斎藤はアメリカ戦での敗北をバネにし(世界大学選手権)、中日が1位指名した大野雄大投手(佛教大)はキューバ戦(ハーレム国際)で完投勝利を収めているが、一時は代表落選の雪辱も味わった。彼らがプロ野球というステージでもストレートの威力を発揮させれば、対戦打者たちの進化も早まるはずだ。大石、沢村、塩見貴洋(八戸大)、中村恭平(富士大)、榎田大樹(東京ガス)…。ドラフトを賑わせた即戦力投手のほとんどが「無名高校生だった」ということも、野球少年たちの励みにもなるのではないだろうか。
大学在学中からプロ野球、五輪スポーツの取材・執筆活動に入る。週刊大衆、週刊女性を経てフリーに。専属記者時代は二子山部屋を担当した。
近著は『マツイの育て方』(バジリコ出版)、『戦力外通告』、『同 諦めない男編』(角川ザテレビジョン/共著)、『プロ野球 最後の真実』(桃園書房)、『プロ野球 戦力外通告』(洋泉社新書/共著)、『猛虎遺伝子』(双葉社/共著)など。