夏の甲子園大会予選まで、まだ少し早い時期は、一年生の新入部員もその学校の練習形態に馴染んできたころではないだろうか。それは、河川敷の少年野球チームも同様である。新入生が増えた分、さらに活気が増したようだが、近年抱えてきた『難題』は解消されていないという。
「今の子供たちと話をするのは大変だよ。言葉が通じないというか……」
年長の指導者からそんな嘆きが多く聞かれる。「言葉が通じない」とは、「ニュアンスが伝わらない」という意味だ。たとえば、「バットは雑巾を絞るように」「ゴロはもっと腰を落として」などの“指導用語”がそうである。
ひと昔前、「雑巾を絞るように」の言い回しは、打撃指導では当たり前のように使われてきた。しかし、今の時代、雑巾をしぼったことのない現代っ子もいれば、学校や家庭で掃除の手伝いはしても、雑巾を使う頻度はかなり少なくなっている。したがって、バットを握る際の「雑巾を絞るような」のニュアンスは、現代っ子には伝わらないのである。
守備練習にしてもそうだ。今の小・中学生は捕球の際に腰を低く落とせない。また、腰を低く落とせたとしても、その姿勢を5秒、10秒と持続できないという。こちらも、近年指摘されてきた問題だ。
「どの家庭も洋式トイレですし、今の子供たちは和式トイレで用を足せないみたいで」
「昔は木登りもできたし、相撲を取って遊んだりしたものですが、今の子はスタイルが良くなったけど、足が細くて……」
指導者たちはそんな嘆きを口にしていた。
現代っ子の筋力数値は落ちているかもしれない。とはいっても、スポーツ競技をこなせないほどガタ落ちしているわけではない。野球をやっているのだから、体力、筋力はこれから伸びていくとも解釈できる。では何故、平成の野球小僧たちは、「腰を低くして構えられない」と指摘されるのだろうか。
近年、高校や大学の野球部でも、体幹トレーニングや股関節系のストレッチが取り入れられるようになった。スポーツ科学の発展により、トレーニングメニューも進化したからだが、生活・環境の変化で正しく使い切れていない筋肉を鍛え直すのにも十分な効果を発揮しているという。
「雑巾を−」などの指導用語が通用しなくなった。子供たちと触れている現場指導者は「傘を持つような感じで」「手首をまわしても違和感がないように」「釣り糸を垂らすように」と、そのイメージとニュアンスを伝えるため、新しい比喩を模索していた。こうした指導者の気苦労が野球人口の底辺を支えているのである。
高校、大学の野球部が取り入れているトレーニング方法を、「小学生版」に改良できないものだろうか。正しい技術の修得は怪我防止にも繋がる。指導者に任せっきりにせず、子供たちの体力低下について、親も真摯に向き合うべきではある。
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大学在学中からプロ野球、五輪スポーツの取材・執筆活動に入る。週刊大衆、週刊女性を経てフリーに。専属記者時代は二子山部屋を担当した。
近著は『マツイの育て方』(バジリコ出版)、『戦力外通告』、『同 諦めない男編』(角川ザテレビジョン/共著)、『プロ野球 最後の真実』(桃園書房)、『プロ野球 戦力外通告』(洋泉社新書/共著)、『猛虎遺伝子』(双葉社/共著)など。